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「わあ、本当に、疑いようもなく冬の街だ! 地図の位置は絶対に温帯だと踏んで、化かされたものかと思っていたけれど、不思議なことは本当にあるんだね!」
一面の銀世界、周囲に誰もいない状況に心は弾む一方で、自分一人きりの世界に独白する役者の真似事をして
声を張り上げてみる。やはり空気に沈んで融けてしまって、誰かが隠れている様子もなかった。
「っカァ〜……お客さんにも街の話とか聞けるかな! ってニルと話してた時間はなんだったんだよう……
ねー、ハムカツちゃーん……」
「……リリー。この店の客にいないからと言って、住民が全くいないとは決まってな……
元……気を……出……」
そんな彼らを一瞥して、話を続けたのは耳触りよくざらついたアルトの声を持った男だ。
この場にいるのすら嫌そうな……不機嫌そうな顔をして粗雑に問う彼に、
カウンター席とこの店の隅を陣取っていた白衣の女性が理屈っぽく同意する。
……いま、反射的に声のした方を向いたらしい男から一瞬だけ動揺が見て取れたような?
そこへ、冷静な声がよく通る。数秒空けて、褐色の男が合点のいったように目を見開き、男の言葉に反応した
少年と、少年の声に答えた女性があちこちを指さしていた。便乗して彼女の指先を辿り、目を凝らすと、
光の薄く散っていたように見えていたそれらが、たちまち姿を変え、茶色い精霊になった。
「うわあ⁉ びっくりした……オバケ?」
「精霊だと思うわ。この子も最初からいたのかしら? 全然気が付かなかった。」
「こっちはティラミスみたいに甘そうだったけど、こっちは白くてふわふわで、クリームみたいだね!」
「……それはわかるけれど、食べないわよね?」
「めえ~、よくわかんないよお。羊にもわかる言い方にしてよお~。」
「……まあなんだ、要するに俺たちは同じ目的で集まったってことだろ?」
「おまえたち、みんな、仲間?」
「少なくとも敵には回らんってことだと思うが、どうだか。」
「じゃあ、決まったね。僕は啓明。硝子堂の店主をしているよ。どうぞよろしく。」
「ん? ああ、そっか、名前。僕は夕星。ここの店員をやってる。ケイはあれでけっこう薄情なやつだから、
もし何か人手を必要にしていることがあったら僕の方に言うといいよ。ほどほどによろしく。」
「あ、おかえりミラ! みんな聞いて、ボクらお友達になっちゃった!
お友達ってすごくいいね、ステキな映画の中のキラキラした空想みたいだね!」
「助手にならしてやってもいいとは言ったがね。」
「? ……? …………。」
「アドニス、どうしたんだい? 牙の間に何か挟まったとか?」
「いや、気のせい、だった……かも。」
「ならよかった。」
「……待て。これ、違和感、これ?」
「……そうだね、気のせいじゃなかったね。」
「どうして僕がキミたちのことを信頼している前提なんだ?」
拝啓