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結論から言うと、顔の見えない住民は喋った。ただし、その声は箱の中から。当然、ジェームズの視線も声のする方へ引き寄せられ、下がって、止まる。
「あら、ノイくんというの? こんにちは。私も早く春に会いたいわ。私にも、この子にも寒すぎるから。
私にわかることであればお答えするわ。」
「えっ? なんですか? お花が……それはへんだねえ。なんだろう。」
奇しくも、レオンが話しかけた少女もまた、冬を感じさせない春のような風貌でいた。
一貫して緊張感なく進められた会話を終えて、レオンも今聞いた情報を共有しようと二人のもとへ戻っていく。見送る少女はあくびをひとつして、いつの間にかどこかへ消えてしまったが、とうに彼女から背を向けていた彼が気づくこともなかった。
「だーれが殺した クックロビン」
「それはわたしと スズメが言った」
「わたしの弓で 私の矢羽で」
「わたしが殺した クックロビン」
「……いけ?」
「湖、って呼んだ方が近いかもな。だが、これは……」
「こんにちは。」
背後からは甘い声。
存外に近距離から聞こえた音に驚き、ばっと振り向いた先にいたのは、白い布で顔を覆った少女と、
少女を乗せた切り株と、それまでは通った記憶もない小さな沼地。開けた場所。」
「……あれ?」
「……何?」
「……こんにちは。参拝客の方ですか。」
「こんにちはー、ようこそいらっしゃいましたねー。」
クレアーは宮司に導かれ、手水を行ってから、神前に出ていく──文字通り、それは神様の前であった。
「ああ、僕たちが帰ってきたとき硝子堂の店内にいなかったヒトは知らないか。
いや、あのジェームズさんが硝子堂の扉を開くなり、『戻ったよ』でなく『……あっ』って、
それもまさに今思い出したという顔で立ち止まるものだから、もう面白くて面白くて。」
硝子堂の居住スペースから弾力のあるボールのように飛び出してきた鮫歯のかれが、
その両腕に瞭然の惨状を伴って現れた。
実に数日ぶりのことであった。
目を開けた先には、いつの間にか長身の青年が立っていた。
「へえ~。んじゃ、遠慮なく失礼します!」
「リリー、俺にも見せてほしい。気になる。」
「とはいえ、あまり気分の良いものではありませんので、不調など催しましたら遠慮なく仰ってくださいね。」
「なっ……、……レディ!」
数拍遅れて、からかわれたことを理解したヴァンドが追いかけたが、
悪ふざけに慣れた彼女を見つけるのは至難の業だった。
「すごい……なんてハートフルなお話なの……さっき読んだ神話とはまるで雰囲気が違うわね……。」
「……そうだな、いかにも子供が好きそうな話だ。」
「こんにちは! こんにちは! お客さん? お客さん! お花あるよ! お花あるね! あなたもお花?
ぼくはお花大好きだよ、それがほんとにうれしいな! ぼく花屋! ぼくもぼくのお名前知らないけど、花屋!
よろしくね、かわいいきみ。」
ぼんっ
ごとっ。
「……ローゼス、君のからだは、ひとつだけなんだよ……。」
……やっとの思いで出た言葉は、確かに伝えたいことだったけれど、この小さな肩に縋っていないと声にもならなかったんじゃないかと思ってしまうほど、蚊の鳴くように細かった。
自分の感情はわからない。わからないけど、このまま、この腕、
私が。
第二話スチル協力:参照(@EV_shiro)・弐武大将(@P2000715)・ろじしき(@f_s_of_f)/敬称略